ひだまりに恋して。
上原先輩の自転車の後ろに乗りながら、私は不思議だったことを尋ねる。



「先輩、」


「ん?」


「何で私なんですか?」


「え?何?聞こえない。」


「だから……」



風にかき消されて、私の声は届かない。

なんだか上原先輩が、急に遠く感じた。



「私を撮ったの、たまたまですか?」


「違うよ。」


「じゃあ、」



上原先輩は、思い切りペダルを漕ぎながら、風の音に負けないくらい大声で言った。



「朝倉がよかったんだよ!」



何それ。

私が、横内先生を被写体に選んだときと、同じ理由だ。



「何で?」


「朝倉は、陰があるから。」



はっとした。

陰のある人がいい―――

それは、まさしく私が、被写体を選ぶときの基準にしていたこと。

私は無意識のうちに、自分と似た人を選んでいたのだろうか。



「そう見えますか?」


「見える。少なくとも僕には、そう見える。」



理解者だと思った。

私がこの胸に抱えていることは、人から見たら大したことではないかもしれない。

世の中にはもっと、苦しんでいる人はいるし。

でも、私にとっては小さなことではなくて、それを分かってくれる上原先輩が、素直に嬉しかった。



「先輩も、そう見えます。」


「僕?」


「はい。」



先輩が、ペダルを漕ぐスピードがゆっくりになる。

今、彼がどんな顔をしているのか、気になった。



「僕は、そんなんじゃないよ。……そういうふうに、気取ってるだけ。」



そう、ぽつりと呟いた先輩。

その声音には、気取っているだけとは思えない、何かがにじみ出ていた。



「じゃあ、今日はありがとう、朝倉。明日、暗室で待ってるから。」


「はい。楽しみにしてます。」



自転車を降りると、にこりと笑って見せた。

先輩は、どことなく空虚な瞳で私を見て、横内先生に似ている微笑みを浮かべる。



「待ってるから。」



先輩は繰り返すと、私に手を振った。

私は、その声にちくりと胸を痛めながら、帰り道を急いだ―――
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