ひだまりに恋して。
次の日、私は約束通り、放課後に暗室に向かった。



「失礼、しまーす。」


「朝倉?」


「はい。」


「暗いから、足元に気をつけて。」



ドアを閉めてしまうと、赤いセーフライトだけが頼りだ。

暗室の中は暗くて、ひんやりとしていた。



「フィルムは、昨日現像しておいたんだ。今は、そのネガを印画紙にプリントしている途中。」


「へー!大変なんですか?」


「スリリングではあるけれど、それほど大変じゃないよ。慣れればね。」



そう語る上原先輩の手つきは、熟練している。



「もう定着した頃かな。」



バットに入れた印画紙を、先輩は丁寧に水で洗い流している。

きっと、この前にはたくさんの作業があるのだろう。

先輩は、私を待っていてくれたのかもしれない。



「ほら、見て。朝倉。」



先輩が、印画紙の端を持ち上げると。



「あっ!」



モノクロで、綺麗にモチーフが浮かび上がっている。



「すごい!綺麗!」


「だろ?僕は、こうして自分で現像するのが、好きなんだ。」



薄暗いセーフライトの光の中で、上原先輩が得意そうに微笑んだ。

混じり気のない、純粋な笑顔だと思った。


天井からぶら下がっている、たくさんの木のクリップ。

そのうちのひとつに、先輩はプリントしたばかりの写真を挟む。


昨日の写真だ。

空家の前の草むらで、私が空を見上げている写真。

私は、何故かその写真に、目が釘付けになってしまった。



「これ、私……?」


「そうだけど?」



そこに映る私の横顔は、確かに私なんだけど、私の知らない私だった。

何とも言えない複雑な表情をしている私。

空を見上げる、一瞬のはるかな視線―――



「こんな顔、よくするよ。朝倉は。」



そう言われて、私は黙ってしまった。


次々に、先輩が写真をクリップに留めていく。

他の写真では、振り返って晴れ晴れと笑う私もいる。

それが、私の知っていたはずの私だった。



「知らなかった、です。」


「何が?」


「私の知らない私がいたことも、……モノクロ写真なのに、こんなにきれいってことも。」


「モノクロだけど、日差しの感じはちゃんと映ってるだろ?……闇は光を映すんだよ。」


「闇は光を映す……。」


「そう。朝倉もね。」



先輩の声が、ずっと耳に残って離れなかった。

そうか。

だから。


私が、横内先生を撮りたいわけが、やっとわかった―――
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