ひだまりに恋して。
どうしようかな。


ノートを取りながらも、私はずっと被写体のことを考えていた。



――風景を撮るだけじゃつまらないだろ。



横内先生の声がよみがえる。


確かに、何かの世界を表現しようとしたときに、風景だけじゃ表せないこともあるよね。

写真、まだちっとも詳しくないから分からないけど。

人間ほど、感情を露わにする生き物はこの世に存在しないし。



「朝倉!」



のそ、と顔を上げると、怒りんぼの数学教師が見下ろしていた。



「なにぼけーーーっと空なんか眺めてるんだ!集中しろ集中!」


「すみません。」



ほんとに、どうしようかな。


一週間以内に見つからなかったら、入部できないんだあ―――



横内先生目当てで入部する人も、この段階でつまづくのかな。

いや、そういう子たちは連れ立っているから、お互いに被写体に選び合ったりして案外簡単に決まるのかもしれない。

うん、きっとそう。

こんなに悩んだりしないんだ。


だけど、活動は基本的に自由だから。

先生と関わる機会なんてほとんどないんだよね。

だから、部活なんてどうでもよくなっちゃうんだろう。



「あ さ く らっ!!!」」



先生に、教科書でばさっとはたかれる。

私のセミロングの黒髪が、風圧でぶわっと揺れる。


周りから、くすくすと笑い声が聞こえてくる。



「すみません。」


「素直に謝ればいいと思ってるだろ?」



私のぐしゃぐしゃの髪をさらにぐしゃぐしゃにした先生の片手。

それを、恨めしく見上げる。



「じゅ ぎょ う き け!」


「はい。」



やっと背筋を伸ばした私に、先生は不満げな目を向け、教卓へと戻って行った。
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