だんご虫ヒーロー。【番外編集】
両手で手すりを力強く握る。
すると後ろから手が伸びてきて、私の両手を握られた。
ほのかに香るのはさっきまでぐっすりと眠っていた人の香り。
「…ごめん、起こしちゃった?夕里」
背後にいる夕里を見ると、夕里は首を横に振って手を私の首に回した。
夕里に泣いてるところを見せないように、カーディガンで目を拭く。
「…珍しいね、原崎さんの夢を見るなんて」
「…え?」
私、夕里に彼方の夢を見たなんて一言も言ってない。
なんで分かったの……?
体を捩って夕里の方を向く。
夕里は微笑んで、私の瞼を親指の腹でこする。
「…李が弱くなるのは原崎さんのことくらいだからね。すぐに分かったよ」
ニコッと笑う夕里には相変わらず隠し事が出来ない。
年はとっても鋭いのは高校の時から変わらない。
私は夕里の胸にコツンと額をくっつけた。
夕里は優しく私の腰に手を回して包み込んでくれた。
「…昔ね、彼方と李色のウエディングドレスを着て結婚式を挙げるって約束をしたことがあったの。
もうずっと前の話だから忘れてたけど、まさか今日思い出すなんて思わなかった」
もし彼方が生きていたのなら、結婚式に呼べたのに。
隣にいるのは彼方じゃなくても、彼方に李色のウエディングドレスを見せられたのに。
彼方が生きていれば、絶対見せに行ったのに。
なんて今さらだよね。
今さら彼方が生きていればいいだなんて思ったって、何も変わらない。