赤糸~新撰組の飼いがらす~
むかし、土方たちが試衛館でひたすら竹刀を振っていたときのことを思い出す。
あの頃はまだ、誰一人手にかけたことなんて無くて。
馬鹿みたいに剣を振るうことが楽しかったのに。
今現在、新撰組を手こずらせている辻斬りの犯人は、幼少期どんな人物だったのだろう。
ふと、そんなことを考えた。
血に塗れてしまった自分。
しかし、そんな自分にだって、純粋だった『むかし』がある。
誰にだってあるはずだ。
穏健派攘夷浪士にも。
過激派攘夷浪士にも。
冷徹で無慈悲と恐れられる新撰組隊士にも。
だから……
からすの辻斬りにだって――…
そこまで考えて、やめた。
馬鹿らしくなったのだ。
切り替えるように短く息を吐き、上半身を起こす。
目の前の机には、溜まりに溜まった始末書やその他もろもろ。
片づけなければならない仕事は山ほどある。
無駄な考えごとをしている場合ではない。
そう思い直し、土方は半紙に筆を走らせるのだった。