キス中毒
もう誰もいないオフィスの中は、照明も部屋半分ほどしかついてない。
デスクでパソコンの前に座ったまま、隣が椅子ごと近づいてきたら、キスの合図。


きぃ、と安物の椅子が油の切れた音をさせる。
両手で頬を挟まれて、私はぼんやりと薄く目を開けたまま。


絡まる舌の感覚だけを追いかける。
少しだけ唇を離して、男が苦笑いをした。



「目くらい、閉じれば」



そう言われたけど。
だって不思議なんだもの、なんでこんな綺麗な男が私なんかにキスしたがるのか。


だけどそれを聞くのは怖いから。
このキスが、終わってしまうのは怖いから。



「いいの、目の保養」



それだけ言って、ねだるように私から唇を喋んだ。
柔肌が擦れ合う感覚に、腰が痺れる。


混ざり合う唾液が、甘くさえ、感じるの。


私はいつまで、このキスをもらえるの。
あなたはなんで、私にこんなキスを教えたの。


聞けない、聞けない。
終を知るのは怖いから。


いつまでも、キスしていたい。
息苦しさに、僅かに離れることさえ寂しい。



「ねぇ」



――― 貴方はなんで、私にキスするの。


聞けない私は、手探りで確かめたくて
僅かに空いた唇の狭間に指先で触れた。
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