キス中毒
ふわりと、ベリーの香りがした。
私のグロスが唾液と混ざって、二人の唇の間で指先が濡れる。
貴方の唇も私の唇も、同じくらいの温度で、熱い。
二人の気持ちも、同じくらいの熱であればいいのに。
「なぁ」
男が何かを言いかけて、私と同じように逡巡して飲み込んだ。
そうして、言えない私たちは
また、言葉の代わりにキスをする。
何度も、何度でも。
――――――
―――
コツコツと床を叩く足音がして、いつもの時間に警備員が見回りにくる。
「もうすぐ施錠ですよ」
「はぁい、すみませんいつも遅くまで」
パソコンの電源を落として、帰り支度をしながら返事をした。
残業したにも関わらず、あまり進んだとは言えない仕事を家に持ち帰ることにした。
「もー、全然終わらないじゃん」
唇を尖らせてそう言うと、同じく帰り支度をしている男が肩を竦めた。
「いいじゃん、明日も残業すれば」
しゃあしゃあと、そんなことを言う。
私は答えに困って黙り込んだ。
――― 残業したって、仕事進まないじゃん。
そう思いながらも、明日もきっと残業のつもりで予定を組むだろう、私はすっかりキス中毒だ。
end.
私のグロスが唾液と混ざって、二人の唇の間で指先が濡れる。
貴方の唇も私の唇も、同じくらいの温度で、熱い。
二人の気持ちも、同じくらいの熱であればいいのに。
「なぁ」
男が何かを言いかけて、私と同じように逡巡して飲み込んだ。
そうして、言えない私たちは
また、言葉の代わりにキスをする。
何度も、何度でも。
――――――
―――
コツコツと床を叩く足音がして、いつもの時間に警備員が見回りにくる。
「もうすぐ施錠ですよ」
「はぁい、すみませんいつも遅くまで」
パソコンの電源を落として、帰り支度をしながら返事をした。
残業したにも関わらず、あまり進んだとは言えない仕事を家に持ち帰ることにした。
「もー、全然終わらないじゃん」
唇を尖らせてそう言うと、同じく帰り支度をしている男が肩を竦めた。
「いいじゃん、明日も残業すれば」
しゃあしゃあと、そんなことを言う。
私は答えに困って黙り込んだ。
――― 残業したって、仕事進まないじゃん。
そう思いながらも、明日もきっと残業のつもりで予定を組むだろう、私はすっかりキス中毒だ。
end.