思色(おもいいろ)
探索方 陽香
私たちは、神社を囲む低い生垣をそろそろと音を立てないように進んで、ちょうどかんざしの主と女の人たちが話している顔が見えるところまでやってきた。
かんざしの主は、やはりとても美人で
秘密裏に動く仕事もあると聞くのにこんなに目立つ美人でいいのかと思う位、素敵に見えた。
一方で、女性たちの方は、だいたい似たような年齢で
私たちより、少し上の年齢に見えた。でも、その中で中心となっているのは、少し小柄の、私と同じくらいの年の女の子だった。
「色恋沙汰かしら」李亜は、息を潜めながら言った。
色恋沙汰…恋愛絡みってことなのかな。
「そうかもしれないね」
とにかく、彼女たちの話が終わらないと、私たちも接触できない。
流れのままに、私たちは話を聞く羽目になった。
『だから、沢田屋の主人からの縁談はどうしても破談にしたいのです』
『お千代ちゃんは、うちの店でもずっと商いをしてきましたし、女将さんや旦那様も番頭の継久さんとゆくゆくは…って、ずっと思ってたようですし…』
『私、何よりあんなスケベ親父のところ、嫁ぎたくありません。その息子との縁談であっても、私に何かちょっかいをかけてくる気がしてならないんです。この前の酒席に招かれた時も、怖かったですし…』
『どうか、どうかお願いします!』
『沢田屋との縁談、ぶち壊してください!』
私は驚いた。
そうか、ここはそういう国なんだ。
親同士が決めた相手や、何か縁のある者から持ち込まれた縁談は
断ることがきっと難しいのだ。
この、お千代ちゃんという人は
それで探索方に頼みに来たんだ。
ていうか、そういうことも引き受けてくれるの?
私は探索方という仕事が
やっぱりよく理解できないでいる。
青いかんざしの女の人は、ひとしきりその願い出を聞いたところで
『わかりました』と、とてもよく通る凜とした声で言った。
『私の言い値を用意できるのなら、引き受けましょう』
『おいくらですか?おかみさんたちに話せば、なんとかなるかもしれないわ』
『20鳴』
『20鳴!?』
女の人たちから悲鳴のような声が上がった。
「20鳴とは…大きく出たわねぇ」李亜がボソッと言った。
私は、そのお金が一体いくらくらいの価値があるのかわからないけど
とにかく話の流れからすると高価だってことは確かだ。
絶句していたお千代ちゃんが、キッと鋭い目になり、驚くことに
『絶対に集めて見せます』と
強い眼差しで言った。
その他のものたちも
お千代ちゃんの意気込みに続くように、やります、絶対に諦めないわ、と口々に言った。
『では、7日。7日後にもう一度、ここで会いましょう。その時までに用意ができたのなら、私がその縁談、破談に致して見せます』
かんざしの女は、ぞくっとするような怪しい微笑みでそう言った。
女性たちは、早速女将さんたちに相談してみよう、と言いながらそそくさとその場を後にした。
かんざしの女は、それを見送る。
そして私たちの方をゆっくりと振り返り、
「さて。お2人とも。私への仕事の依頼を、盗み聞きしたわね?」
と、ゆっくり私たちを振り返った。
李亜と私は同時にビクッとして
恐る恐る、茂みから出た。
「ごめんなさい…聞いてしまいました」
私が言うと
「私たちも、あなたに用があって…でも、取り込み中みたいだったから、終わるのを待っていることにしたんです。すみませんでした…」
私たちが素直に謝ると、かんざしの女は
最初は責めるような眼差しだったのが、ふっと柔らかくなった。
「まあ、盗み聞きは良くないけれど、2人なら口がかたそうだから許してあげる」
かんざしの主は、やはりとても美人で
秘密裏に動く仕事もあると聞くのにこんなに目立つ美人でいいのかと思う位、素敵に見えた。
一方で、女性たちの方は、だいたい似たような年齢で
私たちより、少し上の年齢に見えた。でも、その中で中心となっているのは、少し小柄の、私と同じくらいの年の女の子だった。
「色恋沙汰かしら」李亜は、息を潜めながら言った。
色恋沙汰…恋愛絡みってことなのかな。
「そうかもしれないね」
とにかく、彼女たちの話が終わらないと、私たちも接触できない。
流れのままに、私たちは話を聞く羽目になった。
『だから、沢田屋の主人からの縁談はどうしても破談にしたいのです』
『お千代ちゃんは、うちの店でもずっと商いをしてきましたし、女将さんや旦那様も番頭の継久さんとゆくゆくは…って、ずっと思ってたようですし…』
『私、何よりあんなスケベ親父のところ、嫁ぎたくありません。その息子との縁談であっても、私に何かちょっかいをかけてくる気がしてならないんです。この前の酒席に招かれた時も、怖かったですし…』
『どうか、どうかお願いします!』
『沢田屋との縁談、ぶち壊してください!』
私は驚いた。
そうか、ここはそういう国なんだ。
親同士が決めた相手や、何か縁のある者から持ち込まれた縁談は
断ることがきっと難しいのだ。
この、お千代ちゃんという人は
それで探索方に頼みに来たんだ。
ていうか、そういうことも引き受けてくれるの?
私は探索方という仕事が
やっぱりよく理解できないでいる。
青いかんざしの女の人は、ひとしきりその願い出を聞いたところで
『わかりました』と、とてもよく通る凜とした声で言った。
『私の言い値を用意できるのなら、引き受けましょう』
『おいくらですか?おかみさんたちに話せば、なんとかなるかもしれないわ』
『20鳴』
『20鳴!?』
女の人たちから悲鳴のような声が上がった。
「20鳴とは…大きく出たわねぇ」李亜がボソッと言った。
私は、そのお金が一体いくらくらいの価値があるのかわからないけど
とにかく話の流れからすると高価だってことは確かだ。
絶句していたお千代ちゃんが、キッと鋭い目になり、驚くことに
『絶対に集めて見せます』と
強い眼差しで言った。
その他のものたちも
お千代ちゃんの意気込みに続くように、やります、絶対に諦めないわ、と口々に言った。
『では、7日。7日後にもう一度、ここで会いましょう。その時までに用意ができたのなら、私がその縁談、破談に致して見せます』
かんざしの女は、ぞくっとするような怪しい微笑みでそう言った。
女性たちは、早速女将さんたちに相談してみよう、と言いながらそそくさとその場を後にした。
かんざしの女は、それを見送る。
そして私たちの方をゆっくりと振り返り、
「さて。お2人とも。私への仕事の依頼を、盗み聞きしたわね?」
と、ゆっくり私たちを振り返った。
李亜と私は同時にビクッとして
恐る恐る、茂みから出た。
「ごめんなさい…聞いてしまいました」
私が言うと
「私たちも、あなたに用があって…でも、取り込み中みたいだったから、終わるのを待っていることにしたんです。すみませんでした…」
私たちが素直に謝ると、かんざしの女は
最初は責めるような眼差しだったのが、ふっと柔らかくなった。
「まあ、盗み聞きは良くないけれど、2人なら口がかたそうだから許してあげる」