思色(おもいいろ)
「改めて、探索方をしております陽香(ようか)と申します」
そう言って、私たちの前にいる美女は深々と頭を下げた。
「李亜といいます」
「若葉です」
私たちもそれぞれ、頭を下げる。
「貴方がたの、望みを聞きましょう」
陽香さんは、先ほどの縁談の件を何かに書き留めながら、私たちの話を聞き始めた。
李亜ちゃんの仕事は、案外早く決まりそうだった。
この町の着物を作る工房から、ちょうど誰か針仕事の得意な人はいないか、と
申し出があったばかりなのだという。
その工房は、町の真ん中にある高台のお城に住むお姫様にも、着物を献上しているらしく、1人人出が減るだけでも納期が遅れてしまうくらい人気のあるお店で、一刻も早く欲しいという願い出だったのだという。
「わたし、やります!やらせてください。その、美羽屋さんへ、口を聞いていただけませんか?」
「いいわ。斡旋料、払えるの?」
「…おいくらですか」
「1環」
ほぅ、と李亜がため息をもらした。
「それならなんとか払えるわ。」
「それと、今の盗み聞きをしていたお千代の周りを同行調査すること。2日に一回、私のところへ報告に来なさい。それから、あなた。あなたは沢田屋の動向を探ること。」
「えっ 私!?」
「そうよ。あなたも何か、探索方を必要とすることがあるから来たんでしょう?」
「そうです…」
私はその後、神楽のことを話した。
李亜ちゃんの機転で、神楽は私のいなくなった恋人ということにした。
「どこにいるか、何をしているかわからないんですが
近くにいるような気はするんです。」
神楽、と聞いて陽香さんの目の色が一瞬変わった気がしたけれど
さらさらとか見に何かを書きつけているだけで、何も言わない。
気のせいだったのかな。
「わかったわ。神楽というその青年を探しましょう」
「ありがとうございます」
「あなたは、仕事は探していないの?」
「あ、わたしは…」
「何か特技があるなら、いくつか紹介できるわよ。」
「特技…」
何もない。
普通の高校生として生活していて
2年も、ベッドにいた私には
何も特技なんてないよ…。
私は少し考えて、陽香さんに答えた。
「いえ、わたしは今お世話になっているお茶屋さんのところで働かせてもらえるように、お願いするつもりです。」
「あらそう。どこのお茶屋さんかしら」
「ときや です。」
「ときや!わたしあそこのリバーユ大好きなのよ」
「本当ですか?私たちも昨日、ご馳走になりました」
「おときさんのところにいるなら、心配ないわね。料理の腕は確かよ。しっかり仕込んでもらいなさい。」
「はい。」
私の頭に、照れでふてくされたようにつっけんどんにしゃべる、おときさんの顔が浮かんだ。
小さな体でたまにお店を手伝うおばあちゃんの姿も。
頑張ろう。せっかく縁あってお世話になることになったんだもの。
気がつくと、もうお昼をすぎていた。
「李亜、帰らないと。おときさんに怒られちゃう!」
「大変!」
わたわたしている私たちを見て、
陽香さんは、久々にときやのリバーユが食べたい、と言い
私たちと一緒に、ときやへ来ることになった。
青いかんざしは外して、銀色の筒のようなもので髪の毛を結んだ。
「今日のお仕事は夜までないから、しばらくかんざしを外すのよ。私の目印って知っている人が多いからね」
そう言って笑った。
「大変な…お仕事ですね」私が言うと
「探索方はね、世代で継いでいくのが普通なの。だから、小さな頃から色々な手伝いを父から学んで勉強するのよ」
「すごい…」
「でも、当たり前にそうそだったから、あまり自分が大変なことしてる自覚がないの。他の兄弟たちもみんなそうだと思うわ」
「そうなんですね…」
この世界にも、いろんな人がいる。
私の住んでいる世界に、いろんな人がいたように。
ここへ来なかったら、こんな風に
全く知らない世界のことを
そこに息づいて、生活している人のことを
何にも知らずに、一生を終えていたかもしれない。
まだまだ知らない事だらけだけど
私は、ここで生活して行くのも悪くないのかもしれない、と思っていた。
まだこれから、数々の苦難が待っていることなんて
今の私からは、想像することもできなかった。
そう言って、私たちの前にいる美女は深々と頭を下げた。
「李亜といいます」
「若葉です」
私たちもそれぞれ、頭を下げる。
「貴方がたの、望みを聞きましょう」
陽香さんは、先ほどの縁談の件を何かに書き留めながら、私たちの話を聞き始めた。
李亜ちゃんの仕事は、案外早く決まりそうだった。
この町の着物を作る工房から、ちょうど誰か針仕事の得意な人はいないか、と
申し出があったばかりなのだという。
その工房は、町の真ん中にある高台のお城に住むお姫様にも、着物を献上しているらしく、1人人出が減るだけでも納期が遅れてしまうくらい人気のあるお店で、一刻も早く欲しいという願い出だったのだという。
「わたし、やります!やらせてください。その、美羽屋さんへ、口を聞いていただけませんか?」
「いいわ。斡旋料、払えるの?」
「…おいくらですか」
「1環」
ほぅ、と李亜がため息をもらした。
「それならなんとか払えるわ。」
「それと、今の盗み聞きをしていたお千代の周りを同行調査すること。2日に一回、私のところへ報告に来なさい。それから、あなた。あなたは沢田屋の動向を探ること。」
「えっ 私!?」
「そうよ。あなたも何か、探索方を必要とすることがあるから来たんでしょう?」
「そうです…」
私はその後、神楽のことを話した。
李亜ちゃんの機転で、神楽は私のいなくなった恋人ということにした。
「どこにいるか、何をしているかわからないんですが
近くにいるような気はするんです。」
神楽、と聞いて陽香さんの目の色が一瞬変わった気がしたけれど
さらさらとか見に何かを書きつけているだけで、何も言わない。
気のせいだったのかな。
「わかったわ。神楽というその青年を探しましょう」
「ありがとうございます」
「あなたは、仕事は探していないの?」
「あ、わたしは…」
「何か特技があるなら、いくつか紹介できるわよ。」
「特技…」
何もない。
普通の高校生として生活していて
2年も、ベッドにいた私には
何も特技なんてないよ…。
私は少し考えて、陽香さんに答えた。
「いえ、わたしは今お世話になっているお茶屋さんのところで働かせてもらえるように、お願いするつもりです。」
「あらそう。どこのお茶屋さんかしら」
「ときや です。」
「ときや!わたしあそこのリバーユ大好きなのよ」
「本当ですか?私たちも昨日、ご馳走になりました」
「おときさんのところにいるなら、心配ないわね。料理の腕は確かよ。しっかり仕込んでもらいなさい。」
「はい。」
私の頭に、照れでふてくされたようにつっけんどんにしゃべる、おときさんの顔が浮かんだ。
小さな体でたまにお店を手伝うおばあちゃんの姿も。
頑張ろう。せっかく縁あってお世話になることになったんだもの。
気がつくと、もうお昼をすぎていた。
「李亜、帰らないと。おときさんに怒られちゃう!」
「大変!」
わたわたしている私たちを見て、
陽香さんは、久々にときやのリバーユが食べたい、と言い
私たちと一緒に、ときやへ来ることになった。
青いかんざしは外して、銀色の筒のようなもので髪の毛を結んだ。
「今日のお仕事は夜までないから、しばらくかんざしを外すのよ。私の目印って知っている人が多いからね」
そう言って笑った。
「大変な…お仕事ですね」私が言うと
「探索方はね、世代で継いでいくのが普通なの。だから、小さな頃から色々な手伝いを父から学んで勉強するのよ」
「すごい…」
「でも、当たり前にそうそだったから、あまり自分が大変なことしてる自覚がないの。他の兄弟たちもみんなそうだと思うわ」
「そうなんですね…」
この世界にも、いろんな人がいる。
私の住んでいる世界に、いろんな人がいたように。
ここへ来なかったら、こんな風に
全く知らない世界のことを
そこに息づいて、生活している人のことを
何にも知らずに、一生を終えていたかもしれない。
まだまだ知らない事だらけだけど
私は、ここで生活して行くのも悪くないのかもしれない、と思っていた。
まだこれから、数々の苦難が待っていることなんて
今の私からは、想像することもできなかった。