思色(おもいいろ)
知る者
私は、青白い顔で横たわった私を
病室でじっと見つめている。


2年前の夏の夜、私はバイトの帰り
暗い道を歩いてた。

そして、家までもうあと数分ってところで
信号を無視して、猛スピードを出していたバイクに轢かれてしまったんだ。

自分の体が、鈍い衝撃のあと、宙に浮かんで
あ、私このまま死ぬかもって思って
痛みを感じる間も無く、記憶が飛んだ。



気がついた時には、私は自分の体を、体の外から見つめてて

自分の意思で指すら動かなくなってしまった、中身が空っぽになった私を見て泣いた。
こんな風になっても
涙って出るんだね。
この水分、どこから来るのかな。




お父さんも、お母さんも
涙が枯れ果てるまで泣いて
一気に20歳くらい老けちゃったんじゃないかって思えるくらいで

そばにいるのに、私が何を言ってもきこえないし、見えていないみたいでとても歯痒かった。




将来のある若い娘が
笑うことも話すこともできなくなっちゃったんだもんね。


私だって、17歳で

こんな風になるなんて思っても見なかった。
なんで私なの?
どうして私じゃなきゃダメだったの?
バイクを運転していた若い男も
その場で転倒して即死だったらしい。

だから?
それと引き換えに、私を元に戻してくれる人なんていない。

でも、実際こうなってしまったんだから
もう仕方ない。

私は病室から出ようとすると、本来の体にぐいっと引っ張られるような感覚になって
ここからは出られなかった。
自分を見つめながら
毎日毎日、何も変わらない日々を過ごす。

すごく退屈。

代わる代わる看護師さんが来て
私のお世話をしてくれて
たまに友達が来たりして
私に会いに来てくれてありがとうって言って
見送る時のお母さんの背中は、少し震えてて
そんなのを毎日見て
私はこれからどうなるのかなって思ってた。


彼氏も、最初は来てくれて。
動かなくなった私を見て、絶句してた。

そして、その後声も立てず静かに泣いていた。



彼は、物静かな人だった。
図書館で、試験勉強中に
隣同士で勉強していたのがきっかけで
同じ高校だっていうのがわかって、仲良くなった。


彼のおかげで、苦手だった数学が好きになった。
成績優秀で、学年では右に出るものはいない位
ずば抜けて頭が良かった。
でも、彼と出会うまではそんなこと気にかけたことなかったんだけどね。

同い年の男の子たちの中でも、大人に見えて、何をするにもソツがなかった。

私のことも大切にしてくれて


すごく好きだった。
初めは、毎日のように
私に会いに来てくれていた。

毎日、動かない手を握ってくれて
名前を呼んでくれた。
いつも優しい目をして。


心穏やかでなんて、いられるはずなんてない。
私たちは、これからだったと思う。
同じ大学に行けたらいいね、とか
大人になったらどんなところへ旅行に行きたいか
未来について、たくさん話してた。
でも、もう
何も叶うことはない。


彼は、時が止まってしまった私を置いて
大学生になった。


ねえ、私はここにいるよ。
あなたが今も好きだよ。
思うだけでも、気持ちがあなたに届いたらいいのに。




彼に、深い傷を与えてしまった。

今も、それは彼の中から忘れることのない記憶の一部になってる。
私は、存在してることに意味があるのかな…って
時々思う。



今の私は誰かの役になんて、たってないし
むしろ、いろんな人の負担になってるようで
心苦しい。



私の手では
私は殺せない。

何度も試したけど
力が入らないから無理。
コップを持つことさえ
ナースコールを押すことさえ無理。




いつまで続くんだろう。
窓の外は、緑の匂いのする
涼しい風が吹き込んでくる。
もうすぐまた、夏が来るんだ…

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