思色(おもいいろ)
杜矢くんは、先ほどとは違う
真剣な眼差しで頷いた。
「ある。 でもそれは、かなり過酷なことだ」
「過酷?」
「うん。別の世界で、違う人間と恋に落ちることだ」
?
あまりの非現実的な杜矢くんの発言と
ミスマッチな真剣な眼差し。
「本気で言ってるの?全然意味がわからないんだけど」
「本気だよ。僕は、『知る者』なんだ」
「知る者?」
「そう。年に数人、世界でそういう者が生まれるんだ。他の世界との行き来を許される、時代や空間を移動できる者がね」
話が飛躍しすぎて、私はしばらく何も言えなかった。
その間、杜矢くんは私に
知る者とは何かを教えてくれた。
10歳前後で、その能力が目覚めること。夢の中で、知る者についてきっちり教え込む、学校のような場所があること。
起きると忘れていて、また眠るとその学校で学ぶ。
寝ている時の記憶を起きている時にも整頓して覚えていられるようになるのは、15歳くらいからで、
そこからは知る者として、時代やその空間ごとに助けを求める人に能力を使うこと。
その仕事は様々で、些細なことから他の知る者との連携が必要な大がかりなものも存在すること。
杜矢くんは、悠の話を聞いて
病室に行けば、そこに私の魂が必ず存在すると確信していた。
そこで、私がどうしたいのか
意向を聞きたかったのだという。
「本当は、じゃあ元の通りに戻して元気にしてあげましょう、なんて出来るといいんだけど、それはさすがに神様じゃないと無理なんだ」
「神様なんて、本当にいるの?」
「いるよ。ちょっとめんどくさがりで、飲み会大好きなふつーのじーちゃんだけどね」
「なにそれ」
そんな神様いるの、とわたしは笑ってしまった。
「本当だよー。嘘だと思ってるでしょ。若葉にも見せてやりたいよー。ていっても、俺も年に一度くらいしか会えないけどさ」
「何で年に一度なの?」
「知る者の集会ってのが、年に一度あんのよ。どんなことをして、誰を助けたかっていうのを発表するの」
「へえ。面白そう」
「面白くなんかないさ。人の手柄聞いてたって、自分が褒められるわけじゃないしさ」
「そういうもんなのかな…」
「とにかく、若葉は俺が違う世界へ連れて行く。この石を持って」
「えっまだ行くって言ってないし」
「は?だって悠のためじゃないのかよ」
「そうだけど…もうここには戻れないんじゃないの?」
「いや、1度だけ戻れる。その時は俺に頼め」
「杜矢くんに?」
「あっちの世界では神楽って名前で暮らしてる。他の世界でも仕事を掛け持ちしてるんだ」
「かぐら…」
「あっちの世界に行ったら、まず俺を探せ。そんなに遠くないところに飛ばしてやるから、自力で探すんだぞ。」
杜矢くんはブレザーの胸ポケットから、
鈍く緑色に光る石を取り出した。
白っぽい革紐が付いている。
「これを持って」
「?」
「緑琉という石だ。お前の助けになってくれるはず。肌身離さず持っておけ。」
「まさか、ゲームかなんかみたいにピンチになった時になんかお助け道具でも出してくれるの?」
「そんなことあるわけないだろ」
「じゃあどう使うのよ」
「何か困ったことがあったり、命の危険がある時、これを力いっぱい握れ」
「?」
「石を通じて、その非常事態が俺に伝わる。間に合えば助けてやるから」
「間に合えばって…」
「そんなに早々、危険な目には会わねーよ。」
「…わかった。覚えとく。」
「じゃあ、目を閉じて下向いて」
「もう!?ホントにもう行くの?」
心の準備が…
せめて、空っぽの私に
お別れをして行こう。
私は、肉体だけのわたしの手に触れて
バイバイ、とつぶやいた。
次にいつ、ここへ戻るのかわからないけど
お母さん、お父さん、今までありがとう。
悠、早く私を忘れて。
私はもう、みんなを楽にしてあげたい。
ただ、それだけなの。
さよなら。
真剣な眼差しで頷いた。
「ある。 でもそれは、かなり過酷なことだ」
「過酷?」
「うん。別の世界で、違う人間と恋に落ちることだ」
?
あまりの非現実的な杜矢くんの発言と
ミスマッチな真剣な眼差し。
「本気で言ってるの?全然意味がわからないんだけど」
「本気だよ。僕は、『知る者』なんだ」
「知る者?」
「そう。年に数人、世界でそういう者が生まれるんだ。他の世界との行き来を許される、時代や空間を移動できる者がね」
話が飛躍しすぎて、私はしばらく何も言えなかった。
その間、杜矢くんは私に
知る者とは何かを教えてくれた。
10歳前後で、その能力が目覚めること。夢の中で、知る者についてきっちり教え込む、学校のような場所があること。
起きると忘れていて、また眠るとその学校で学ぶ。
寝ている時の記憶を起きている時にも整頓して覚えていられるようになるのは、15歳くらいからで、
そこからは知る者として、時代やその空間ごとに助けを求める人に能力を使うこと。
その仕事は様々で、些細なことから他の知る者との連携が必要な大がかりなものも存在すること。
杜矢くんは、悠の話を聞いて
病室に行けば、そこに私の魂が必ず存在すると確信していた。
そこで、私がどうしたいのか
意向を聞きたかったのだという。
「本当は、じゃあ元の通りに戻して元気にしてあげましょう、なんて出来るといいんだけど、それはさすがに神様じゃないと無理なんだ」
「神様なんて、本当にいるの?」
「いるよ。ちょっとめんどくさがりで、飲み会大好きなふつーのじーちゃんだけどね」
「なにそれ」
そんな神様いるの、とわたしは笑ってしまった。
「本当だよー。嘘だと思ってるでしょ。若葉にも見せてやりたいよー。ていっても、俺も年に一度くらいしか会えないけどさ」
「何で年に一度なの?」
「知る者の集会ってのが、年に一度あんのよ。どんなことをして、誰を助けたかっていうのを発表するの」
「へえ。面白そう」
「面白くなんかないさ。人の手柄聞いてたって、自分が褒められるわけじゃないしさ」
「そういうもんなのかな…」
「とにかく、若葉は俺が違う世界へ連れて行く。この石を持って」
「えっまだ行くって言ってないし」
「は?だって悠のためじゃないのかよ」
「そうだけど…もうここには戻れないんじゃないの?」
「いや、1度だけ戻れる。その時は俺に頼め」
「杜矢くんに?」
「あっちの世界では神楽って名前で暮らしてる。他の世界でも仕事を掛け持ちしてるんだ」
「かぐら…」
「あっちの世界に行ったら、まず俺を探せ。そんなに遠くないところに飛ばしてやるから、自力で探すんだぞ。」
杜矢くんはブレザーの胸ポケットから、
鈍く緑色に光る石を取り出した。
白っぽい革紐が付いている。
「これを持って」
「?」
「緑琉という石だ。お前の助けになってくれるはず。肌身離さず持っておけ。」
「まさか、ゲームかなんかみたいにピンチになった時になんかお助け道具でも出してくれるの?」
「そんなことあるわけないだろ」
「じゃあどう使うのよ」
「何か困ったことがあったり、命の危険がある時、これを力いっぱい握れ」
「?」
「石を通じて、その非常事態が俺に伝わる。間に合えば助けてやるから」
「間に合えばって…」
「そんなに早々、危険な目には会わねーよ。」
「…わかった。覚えとく。」
「じゃあ、目を閉じて下向いて」
「もう!?ホントにもう行くの?」
心の準備が…
せめて、空っぽの私に
お別れをして行こう。
私は、肉体だけのわたしの手に触れて
バイバイ、とつぶやいた。
次にいつ、ここへ戻るのかわからないけど
お母さん、お父さん、今までありがとう。
悠、早く私を忘れて。
私はもう、みんなを楽にしてあげたい。
ただ、それだけなの。
さよなら。