あなたから、kiss
店を出て、駅までの道のりを…
私は、上機嫌で歩いていた。
「ただでさえフラフラだってのに…遠慮なくおかわりなんてするから。」
ふらつく私を、時おり支えながら…
雨宮くんは、大きく息をついた。
「雨宮くん!夜は…まだまだ!一杯引っかけてくよ!」
「勘弁してください。俺、明日1コマから講義入ってるんで。」
「えー…?出社しないの~?寂しいじゃない。」
「………。完全に呑まれてますね…。」
「明日は~…、午後から出社すること!」
「バイト入れてないです。」
「だって、一緒に書くんでしょー?……記事。」
「ハ……?それ、本気で言ってんですか?」
「本気だよ。編集長の許可もとる。」
「…………。」
彼は、ピタリと足を止めて…。
その真偽を確かめるようにして、私を見据えた。
「……雨宮くんは、ライター志望でしょ?ウチの会社にいれば、見て分かっただろうけど…。チャンスあらば、そこにつけこまないと仕事なんて取れない。自分を売り込んでナンボの世界よ。」
「…………。」
「それに。あのお店に関しては…、少なからず、私と同じ思いを共有していた。人に知らせたい、知って貰いたいって…アナタは思わない?願わくば、自分の言葉で。」
「思います。」
即答…だった。
「ふふ…、かわいーとこあんじゃない♪」
クールな瞳の中には…小さな闘志。
ちょうど、この業界に足を踏み入れた時の…自分を見ているようだった。
とにかく、酔っていたせいもあるだろう。
妙に可愛く見えてしまった彼に…私は近づいて行って。
その、柔らかそうな黒髪を…
わしゃわしゃとなでまわしていた。
「……俺、犬じゃないッス。」
そう言いながらも、アラサー女の衝動に…抵抗せずに付き合ってくれるんだから、
本当…、
可愛いのかもしれない。
不眠続きの頭の中、その記憶は…
そこで、途絶えていた。