あなたから、kiss



この日、朝出社したのは…。



遅刻ギリギリの、8時25分だった。















「よお、ずいぶんのんびりな出社だなあ。」


「………。大きい声、出さないで下さい。アタマに響くんで。」


「……。二日酔い?」


「……いえ。そんなに飲んでないハズなんですけど…。」 


「立派な二日酔いじゃねーか。わかるよ、年取るとムチャな飲み方はできなくなるもんだ。」



「…………。」


「さーて、と。仕事仕事!」


パコン、と資料の束で頭を叩かれて…、ようやく私の思考が動き出す。


ホワイトボードに書かれた社員の行動表。


日付けはまだ…、昨日のまま。




「……。全くもー……。気づく人っていないのかしら。」



イレーザーがきゅと音を立てて。


文字を…消していく。





「ん?…タカちゃん、外出になってる。新垣先生、無事ネーム終わったのかな……。」


社員の名前を辿って。



ボードの一番下まで…追ったけれど。



そこに…バイトの名前はない。




「………。気づかなかったな……。」



いつ、彼がここに来ているだとか…。


今まで本当に気にも留めなかったってことだ。




「編集長!あの…、雨宮くんって…今日シフトに入ってます?」


「んー……?ちょっと待てよ?」


編集長は、デスクの中から一枚のプリントを取り出して。まじまじと…見つめる。



「今日は休みだなあ…。」


「……そうですか。」



ってことは……。


昨夜の、駅までの道のりでの会話は。


夢じゃなかったって…ことだ。




「……。多分…ですけど、確証はないですが…。彼、午後から出社するかと思います。」


「……?休みなのに?講義入ってんじゃねーのか?まあ…、こっちはありがたいばかりだけどな。熱心だねー…、若造。流石は将来の有望株!」



編集長は……知ってるんだ。


雨宮くんの…、夢。



「編集長…。お願いがあります。」


「あ?」


「バイトのシフト表も…、あそこに掲示してくれませんか?お気づきのように、雨宮くんがいるかいないかで、仕事の効率も変わってきます。」


「ふーん。なら、コレ貼っとけ!」



編集長は、折り目だらけのシフト表を…私に差し出してきた。


「それから…」


「まだあんのか?!」



「………彼を、私に貸して下さい。」








「………は?」
















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