あなたから、kiss
コーヒーメーカーから、こぽこぽと音を立てて。
落ちてくる香しいそれに。
なぜか…
ホッする自分がいた。
紙コップに入れられたミルクとスティックシュガーを手にとって。ふと…考える。
もし、彼がここにいたら。
今日はどんなコーヒーを入れてくれたのだろう…、と。
「……。ブラックかな…?」
砂糖、ミルクの順番に…、元の位置へと戻す。
集中出来ていない自分を戒めるためのコーヒーでいい。
一口…、飲んでみると。
いつもよりも、更に……苦い味がした。
不思議だ。なのにちっとも……嫌じゃない。
「珍しいですね。」
入り口から声がして……。
恐る恐る振り返ると。
いつの間にやらいたのか…、ドアにもたれ掛かるようにして、雨宮くんが…立っていた。
「花さんがブラック選ぶなんて。心境の変化ですか?」
「…………別に…。」
「すみません、花さんが知らんぷりするから…意地悪しました。そろそろ飲みたくなる頃だって分かってたんですけど…。」
「………。」
「人間の味覚って…不思議ですよね。いくらでも、どうとでも変わってしまうんですから。」
「……そうね。」
「ちょっとしたことで…、変えられる。観念だってそうです。そのきっかけを与えた環境を…、人を…、嫌でも忘れられなくなる。」
「…………。」
「俺にとっての花さんは、そういう存在です。」
「………へ?」
分かるようで…、ちっともわからないんだけど…?
「……あの……」
「花さん、俺、仕事しにきました。花さんが…、きっかけを作ってくれたんですよ。」
「…………。」
「それ、飲んだら…教えてくれませんか?花さんの…仕事。」