あなたから、kiss
「通り雨っぽいッスね。少し経てば…止みますよ。」
雨宮くんの緩いパーマのかかった髪が…しっとりと、ストレートになっている。
それだけで……、雰囲気ってこうも変わるんだ…。
「……。顔になんか付いてますか?」
「え。」
「あまりにもこっち見てるから。」
「あ……、はは、なんか、いつもの生意気さが半減してるなあって。」
「……はあ?」
「雰囲気が柔らかい感じ。髪型って…、案外重要なんだね。……ハイ。」
彼にハンドタオルを差し出すと、
「…そっちの方が濡れてるでしょ。」って言って…。
受け取ったそれで、私の髪を、わしゃわしゃと拭き始めた。
「……自分でするから、いいって!やっぱ生意気~!」
「それも…そうッスね。」
ピタリ、と手が止んで。
雨宮くんは…顔を逸らした。
「すみません。調子に乗りました。」
「………イエ…。」
気まずい空気が…流れる。
「そう言えば。編集長言ってました。二日酔い…、大丈夫ですか?」
「……うん、だって、昨日そんなには飲んでなかったでしょう?」
「…千鳥足だったけど。」
「うるさいなー、このとーり、全然平気です!」
「……………。」
「…………でも……。」
「ん?」
「朝、オニオンスープを飲んだお蔭かな。」
「…………。」
「……なーんて、ね。」
雨宮くんの反応を確かめたくて。
つい…、口走ってしまった。
一方の彼は……
前を向いたまま。何も…言わなかった。
「家に帰って、記事の内容を…考えていたって…本当?」
「……嘘じゃないですよ。」
「昨日…、私はどうやって家まで帰ったのかな。」
「…………。」
「ずっと、夢を見ていた気がするの。だけど、時々…声が聴こえた。」
「……………。」
「起きたらね、あるはずもない温かいスープと、それから…寒いのに、手だけはポカポカしてて……。まるで、ついさっきまで、そこに誰かいたんじゃあないかって…」
「………。……そうなんですか。」
「ねえ、雨宮くん。貴方は…そこにいましたか?」
「……そうだったら…、どうしますか?」
妖艶な瞳が――…
私の瞳の奥を見つめる。
もし、そうだったら――…?
そんなの、私が…知りたい。