あなたから、kiss
今日も、私のデスクには…コーヒー。
木製のカップに入ったそれは、私の…元気の源
。
「雨宮くん、S印刷さんに入稿しに行くけど…一緒に行ってみる?」
「はい。」
変わったことと言えば…、
好評を得た雑貨屋の記事の一件以来…。
彼が、社員の仕事に少なからず…携わるようになったこと。
初めは、私について。
それから…、男性ファッション誌などにも……ちょいちょいお呼びが掛かるようになっていた。
「若いって、その分伸びしろが大きくて…怖いですよね。ここを出て、他社に就職したら…、脅威かも。」
タカちゃんは、彼の飛躍ぶりに…目を見張っているようだった。
「私のオアシスが……、ああ~……。」
「………。タカちゃん、本命じゃなかったの?」
「あーゆーデキる男は、こーんなキャピキャピした女には見向きもしないですよ。自分を高めてくれるようなメスを求めるもんです。」
「……ふーん…?」
「先輩はいいですネ……。」
「…ん?」
「彼の教育係が板についてます。」
「それ、嬉しくないし。」
「……冗談ですよ。彼の尊敬の眼差しは……いつも先輩に向けられてるから、ちょっと羨ましいんです。」
タカちゃんが言うその言葉は…、半ば嘘ではないことくらいは、気づいてる。
だけど、その関係性は……
あの頃のまま。
仕事の話を頻繁にするようになったくらいで……
ドライで、落ち着いた口調も。
私に向ける鋭い指摘も。
ある一線を…越えることはなかった。
この冬を越えると……。
彼は、ここから居なくなる。
それを知ったのは…
つい、最近のことだ。