あなたから、kiss


会社の外は…


乾いた風が、吹き付けていた。



カツ、カツ…と、パンプスの音を鳴らして。街を…闊歩する。


風にさらされた木々から、葉っぱが…舞い降りて。

街頭の光を浴びを帯びながらダンスするその光景が、幻想的にさえ思えた。


久しぶりの…外の空気。

意識朦朧としている私には、目に映るもの全てが…新鮮に見える。


乾燥したオフィスに…長時間。

カサカサの手。

荒れた…唇。



外回りのときには、それを誤魔化すようにして…化粧を直すけれど。


女オーバー30、そうそう誤魔化せる肌でもない。



ファンデーションのノリが悪くてイライラする時期は…もう過ぎた。



「寒…、もう冬が来るなあ…。」





センチメンタルになってしまう…晩秋の空の下。


だけど、都会の街は…そんなゆとりも与えてくれない。


行き交う人混みに流されないようにと…



必死に、食らいつくほかないのだ。







「花さん!」



途端に―…、


背中から、私を呼ぶ声。



振り返ると、そこには…


こっちに駆け寄ってくる…雨宮くん。





「てか、歩くの速いッスねー。」


ようやく私に追い付くと。


膝に手を置いて、乱れる呼吸を整えながら…


小さく笑った。



「これでも、元陸上部。」


「…競歩選手?」


「違うよ、短距離!」


「成る程。でも、歩くペースに関係ないでしょ。」


「……そうだけど。……まあ、年の功よ。」


「……?」


「スニーカーからパンプスに履き替えて10年!そりゃあ、慣れもする。」


「………。」



今度は…、成る程っては言わないのね。

恰好の自虐ネタだったのに、気をつかってるの…?



「かっこいーじゃないですか、ソレ。仕事がデキる女性って感じがします。」


「……。からかってるの?」


「いえ、本心です。俺なんて、まだスニーカー卒業できないですもん。編集長の革靴も、花さんのパンプスも、憧れます。」


彼の足元は…、確かに、履き慣らした感じのお洒落なスニーカー。


「……。まだ若いんだから、そんなもんでしょ?」


また、若さへの…嫉妬を丸出し。



可愛げない女だって言われ続けてるのに…、反省の余地もない。



「……。てか、どうしてあなたがここに?」


「編集長から、花さんをサポートしろって。」

「はあ?!」

今までそんな気遣いされたことないのに?


「気を悪くしないで下さいね?『アイツも若くないから』って。」


「……それはそれは…」


余計なお世話ですね…。


「でも、心配してたみたいです。編集長って何だかんだ人を見ててー…。毒づいてばっかですけど、花さん足元ふらついてたから…。どうやら、この様子なら杞憂だったみたいですけどね。」


「…………。」


「…察してあげて下さい。俺じゃなんの助けにもならないですけど、社会勉強させるつもりで同行させて下さい。」


狡い…言い方。


誰も悪者にさせないための…気遣い。



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