春、ふわり。【短】
「何、甘やかしてるんだよ」


「え?」


頭上から降って来た声に顔を上げると、1年先輩の男性社員がいた。


「後輩には、もっと厳しくしていいんだぞ」


「先輩みたいに、ですか?」


「そうそう。……って、俺は優しいだろ!」


「そうでしたか?私、すごくしごかれた気がするんですけど……」


「それはだな、仕事が出来ない奴にならない為の愛の鞭だよ」


相変わらずノリのいい先輩は、私が入社した時に教育係を務めてくれた人。


「愛の鞭って……。自分で言ってて、恥ずかしくないですか?」


先輩としても人としても信頼出来る彼を、一人の男性としても見てしまっている事は絶対に言えないけど…


「うるせぇ」


こんな風に笑い合える時間が好きで、何よりの励みになる。


もちろん、後輩以上として見て貰えたら嬉しいけど、仕事の出来る先輩の眼中には私なんて入らないだろう。


その辺りは弁(ワキマ)えているつもりだから、多くは望まない。


ただ……


「どうでもいいけど、あんまり無理するなよ。高瀬はいつも、一人で抱え込むから」


もう少し、もう少しだけ、こうして過ごす時間が欲しい……


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