それでも僕は君を離さない
彼はゆっくり歩いてくれた。

たぶん私の歩幅に合わせてくれているようだ。

私はそういう細かな部分に敏感な方だった。

人が何を思って何をするのかを一瞬で洞察できた。

「ここに来たかったんだ。」

あるレストランの行列に並んだ。

見るとシーフード・バイキングだった。

「ここなら自分の食べられる量だけで大丈夫だよ。」

「ありがとう。」

私はやっとひと言だけ声を出せた。

手はまだ彼に握られたままだ。

「少し待つけど、いい?」

「はい。」

私は返事はしたものの無言でいるしかなかった。

その反面、頭の中では目まぐるしく考えていた。

彼は一体どういう男性なのかしら?

女の趣味がいいとはお世辞にも言えなかった。

選んだ相手が私なのだから。

どんな本を読んで

どんな映画を観る人かしら?

社内ではよく笑う方で

誰とでも話せる様子以外はわからなかった。

< 21 / 126 >

この作品をシェア

pagetop