それでも僕は君を離さない
窓の外を見ると一面海だった。

遠くに工業地帯が見えた。

そのまた遥か遠くには大きそうな船が数隻見えた。

私は海に揺らめく波を眺めた。

ずっと見ていても飽きなかった。

むしろ心地良かった。

彼はと言うと

なんと眠っていた。

目は閉じていたけれど

私の手をまだずっと握ったままだ。

満腹でうたた寝したい気持ちは充分わかっていたので

私は話しかけずにいた。

気の済むまで波を見ていられた。

海を眺めたのも久しぶりだった。

次の埠頭が近づいた。

船は前進からUターンして後退しながらゆっくりと止まった。

いつの間にか起きていた透吾さんが言った。

「ゆっくりできた?」

「はい。」

二人で笑った。

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