それでも僕は君を離さない
「僕は今まで何人かと付き合ってきたけれど、ダメだった。僕のことを本当にわかってもらえていると確信できる相手がいなかった。つまり皆が僕のうわべだけを見ていて、相手にも本来の自分を出してもらえず、全く理解し合えなかった。単に甘えられたり、連れ添って歩く仲でしかなかった。僕が求めるものは何一つ得られなかった。いつかわかり合える人に出会えるだろうかと思っていたんだ。君を見つけるまではね。」

「そうですか。」

彼は一気にしゃべったせいか少し間をおいた。

午後のこの時間が一番暖かく春の陽射しだった。

風も和らいだようだった。

私は思った。

彼の寂しさや

自分をわかってもらいたいつらさを。

なぜかと言うと私自身もそうだからだ。

私は彼を理解できた。

でも言わないでいた。

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