そっと優しく　　抱きしめて
δ．想定外な出会い
私は引いていたキャリアー・バッグがふらついたので気を取られて一瞬前を見てなかった。

通路のドアが勢いよく開いて中から出てきた男性に激突してしまった。

「うっ！」

「きゃっ！」私は荷物を両手に持ったままの状態で、その人に抱きかかえられた。

「も、申し訳ございません。」私は長身の彼を見上げて謝った。

「いい眺めじゃん！」

「えっ？」彼の目線の先は私の胸元だった。

「香港帰りだな？」彼は私を抱きかかえたままだった。

「どうして香港帰りだとわかるんですか？」

「香港の匂いがする」

「匂いでわかるんですか？」

「わかるわけないだろ、キャリアーのラベルを見れば一目瞭然だ。」

「そ、そうですね。」

「可愛い唇だ！」

と、彼はいきなり強引なキスをした。

私は両手の荷物が手放せなくてもがくしかなかった。

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