りんごの知らせ
不思議さはやがて不気味さになり、怖くなって捨ててしまおうかと考えたこともあったが、できなかった。

「大切にしてね」

そう言って時計をくれたお母さんに申しわけないと思った。

母ひとり子ひとりのAさんには、お母さんを悲しませるようなことはどうしてもできなかった。

だからそれからは、気にしないように努めていた。

「おはよう、井口さん」

「お、おはよう安藤さん」

いつもと同じように同級生へのあいさつを試み、いつもと同じように強ばった返事をされる。

Aさんは学校でも近所でも、親しくされたことがない。

先生さえも、なんだか自分を避けているようで、目を合わせてもらったことも、授業であてられたこともない。理由は知らない。
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