Secret Rose
私はそんな会話を耳だけで聞いて、ひとり考え事をしていた。

自分の友達が死んだらどのくらい悲しいだろうか、とか
裕吾が死んだら、マスターが居なくなったらどれくらい辛いものなのだろうか、とか
先生は煙草吸うんかな?とか
そういえばお祖父ちゃんは胃ガンで亡くなったって聞いたな…そしたら私もガンになる可能性があるのかな、とか
父と母は大丈夫だろうか、とか・・・。


「茜、眠いんか?」

急に祐吾に話しを振られた。

「えっ?」

「茜ちゃんは煙草なんか吸うたらあかんで。」

マスターは煙草を吸いながらいうので、説得力がない。
説得力はないが、『煙草が吸いたい』とは一度も思ったことがない。
私にの目には、喫煙所で煙草を吸っている人は、イライラしている風にしか映らない。

「煙草なんか吸いませんよ、煙いし。」

私がそういうとマスターと裕吾が『あ・・・』というような、ばつの悪そうな顔をして 2人同時に煙草を消した。

「あ!そうゆうことやなくて!・・・」

言葉に詰まった私に裕吾が

「ずっとそんなふうに思ってたんか・・・。」

とつぶやき、しょぼくれてみせた。

「もー!ちゃうやんか!」

しょぼくれた裕吾と、一所懸命否定している私を見てマスターが笑っていた。
口の中では『違うのに・・・』と、思いながら、腹の中では『こんなに楽しい会話も、いつか出来なくなる日がくるのかな・・・?』と、思うと 胸の奥ところがきゅんとなった気がした。

今日はもう遅いし、ちょうど煙草も消したということで、ここのお金は私が払い、マスターに別れを告げ裕吾に家まで送ってもらった。
部屋着に着替え 歯を磨き、洗顔を済ませベッドに入った。

枕元に母の飾ってくれた花がある。
毎日寝る前に窓を開けると フワッと良い香りが漂ってきて、今日あったことや 担任のことを思い返して ひとりでに口元が緩む。
『明日も花を持っていこうかな・・・』
そんなことを考えているうちに 眠ってしまっていた。
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