Secret Rose
千日紅
裕吾と焼肉屋に行ってから2週間ほど過ぎた―――

毎週だいたい決まった曜日に学校へ花を持っていっていたが、今週は一度も持って行けそうにない。
いつも庭の手入れをしている母が、先週末から同窓会で東京に行ってしまった。

毎回母の同窓会は東京で催されていて、前回も 前々回も3日程で帰ってきたが今回は違う。父と会うらしい・・・。
父と言ってもあたしから見ての父であって、母から言えば夫…になる予定の人だ。
というのも、母が私を妊娠したのが大学在学中 4回生の時のことで 父は3回生だった。母より1つ年下だったわけではなく、2度目のチャレンジで大学に入学した。

母は卒業間近だったので、妊娠したままどうにか学校に通い、無事卒業した。しかし父はまだ1年弱残っていたので はじめは中退し、働こうかとも思ったが、一浪し やっとの思いで入学できた大学ということで、どうしても卒業するまでは…と母、母の両親、そして自分(父)の両親を説得し、一年後ようやく卒業することが出来た。

普通ならそこで結婚すればよかったのだが、なぜ結婚していないかというと、母は父の夢の実現を応援したからだ。
父の夢、それは ミュージシャン。
高校時代からバンドを組み、路上や ライブハウスのような所でよく活動していた。高校時代にデビューの話まできたほどの人気だった。そのせいで大学を現役で入学することは出来なかったわけだが・・・。
しかし、父はどうしても大学に進みたく 大学卒業後なら、とその話を保留にしていた。
母の妊娠発覚前にもう一度音楽関係者から連絡がきて、一年後の“バンドオーディション番組”の予選に出て欲しいというオファーがきた。父もすっかり忘れていたデビュー話だったが、こんなチャンスはもう二度とないと思い、地区予選に応募、出場、そして予選を見事通過した。
そんな喜びの真っ只中、母の妊娠が発覚。しかし母は父の出場を辞めさせようとはしなかった。その代わり、子供を産ませてくれということを条件に。
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