Secret Rose
しかし、よく考えてみれば こんな古そうで、しかも車高の低い、左ハンドルの“外車”に乗るような知り合いはいなかったと思う。考えればすぐわかるようなことだったが、 焦っていて 考えようにも 脳が空回りしていた。

(思いださなあかん、 思いださな・・・)そう、口の中で唱えていたときだった。

車が私より少し前に止まり、運転席から助手席に身を乗り出して 知り合いのような、知り合いではないような男が 私に話しかけてきた。

「なぁ、 君 茜ちゃんやんな? 乗せてったるわ。ここ、乗り!」

そうです、私の名前は≪村前(むらさき)茜≫です。

助手席を指差しながら 私に話しかける声には聞き覚えがあった。私の名前を知っているっていうことは… やっぱり知り合いなのか?
しかし誰なのかは思い出せなかったので、今度は止まって ちゃんと車を覗き込んで顔を確認した。

「あ、なんや、 中村先生やったん? マジ誰か思たし。」

担任だった。 そりゃ聞き覚えのある声なはず。

「あっ ごめんやで、 乗り。」

そう言いながら 担任は、助手席のドアを 内側から開けてくれた。
先生とは特別仲が良いということはなかったが、クラクションを無視した引けめからと、断るのなんだと思い、お言葉に甘えることにした。

この日初めて 担任とまともに会話した気がする。

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