Secret Rose
それから何度か 花をいける日は時間を見計らって家を出た。
毎回とはいかなかったが、タイミングが合えば担任の車で学校まで送ってもらった。
外車の助手席に乗る優越感、そして何より 担任と喋るのが楽しくて仕方なかった。

この日の朝も 例のごとく 時間を見計らって家を出たが、担任とは会わなかった。
寂しい気もしたが、そんなことを思っている自分が恥ずかしくて、気を紛らわそうと小さな声で大好きな歌手の歌を口ずさみながら花を生けていた。

担任が近づいて来ているのには 全く気づかなかった。

「ご機嫌やな。」

「うわっ! 驚かすなや!!」

「おはよ、気ぃついてんのにシカトされてんのかと思ったわ。」

「はよーございます。朝のミーティングは?」

「え?もう終わったで、今終わったとこや。今日は教育委員会が学校来る日やから、いつもより早かってん」

「ふーん、ほんで会えへんかってんや。」

「えー、もしかして 俺のこと待ってたーん?いやらしいわぁ。」

そういうと、担任は憎ったらしい顔で笑った。

「何がやらしいねん! そんなこと言う方がやらしいこと考えてんちゃうん、このエロ教師めが!」

「なんやねん。そんなにムキになられたら ほんまに待ってたんか思うやん。」

「ボケ、黙れ、手伝え。」

「はいはい、ゴミ箱持ってきたるわな」

普段からギャーギャーと口喧嘩にも似た言い合いするものだから たまにちょっと優しくされたり 冗談でも『俺のこと好きなん?』みたいに言われると ちょっとドキっとしてしまう。

私が教師に恋するなんて 今まで考えられなかった。
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