歪んだ愛しさ故に
7章 翻弄
「見た?豊田さん!」
「見た見た!素顔、あんなだったの?!」
フロア中に響く、自分の噂。
まるで一気に、オフィスという場所が、学校に変わったようだ。
いくつになっても、人は噂話や野次が好きなもの。
人の席の近くに来ては、そっと顔を覗き込んで去って行った。
特別なことはしてない。
ただ眼鏡を外して、髪をおろしただけ。
化粧はそれなりにしたけど。
だからといって、美容院でセットしてもらったり、
つけまつげまでばっちりするとか、そういった類はしない。
多分こんなにも人が注目するのは、
今までのあたしが地味すぎたからだ。
ちょっとした変化で驚くのは、当たり前かもしれない。
「浜野さん」
「な、なに……?」
そんな中、あたしは最初に声をかけたかった彼女のもとへ行った。
ドン、と置かれた集計資料。
にこりと微笑んで、口を開いた。