歪んだ愛しさ故に
10章 過去のアイツ
「お先失礼します」
「お疲れ様」
いつもと同じ。
業務を終えて会社を出る。
外は相変わらず寒くて
もうすぐ春が来ると言うのに夜は手袋もマフラーも手離せない。
オフィスビルから最寄駅までは、歩いて5分足らず。
金曜だけど、今日は特別上沢さんと絡むことはなかったから、久々に家で缶ビールでも飲もう。
そう思いながら、改札を通り抜けようと思った。
だけど、
「…っ」
突然、ガシッと掴まれた二の腕。
驚いて顔を上げた先にいたのは……
「おつかれ」
「………健太…」
二度と会いたくない、
最悪な男がいた。