歪んだ愛しさ故に
 
あたしは拓に何か言われると困るからと、そっと会社を退社した。
それが拓を慌てさせ、今こうやって追いかけてくれるという結果に導いた。


でもそれは……
なんとなく分かっていたのかもしれない。

いや、分かっていたんじゃない。
信じてた、と言ったほうが近い。


どこかで拓があたしを見ていてくれたと、そう思いたかったから、あたしは部屋の鍵を閉めなかった。

拓があたしを訪れてくれたとき、なんの抵抗もないし部屋に上がってこれるよう……。


そうしてくれたらと、願っていた。



「どうしてこうなった?
 なんであの男を部屋にあげたんだ」



心配の中に、怒りが混じっている。

こうなってしまったのは、もちろんあたしにも非がある。
健太が襲ってくる可能性があると、十分に理解していたはずだから。

でも……



「写真……
 どうにかしたくて……」

「写真?」

「撮られてたの……。
 この前、無理やりキス…されたときの写真……。

 それを玲子さんに見せる、って……」

「玲子?……って滝本に?なんで?」

「……玲子さんの彼氏が……あいつ、健太なの」



あたしの言葉を聞いて、拓は大きく目を見開いていた。
 
< 216 / 287 >

この作品をシェア

pagetop