歪んだ愛しさ故に
「残念だな」
「……」
玲子さんがいなくなった途端、嫌な微笑みであたしを見てくる健太。
あたしもすぐに無表情へと変わる。
「べつに。
ただ飲むだけでしょ」
今日の飲み屋は、一応は個室だけど、通路との区切りはない。
だからこんな場所で、健太が何かしかけてくるとも思えない。
「ってか、玲子に何も言ってなかったんだ?
呼び出されたのは、それが理由かと思った」
「……言えるわけないでしょ。
あんな信じ切ってる玲子さんを目の前に」
「だと思った。
これ。バッチリ写ってるもんな?」
「…っ」
わざとらしく、自分の携帯を開いて、あのキス写真を見せてくる。
一瞬だけ動揺してしまったけど、すぐに平常心を取り戻して健太を睨んだ。
「いいの?いつ玲子さんが戻ってくるかもわからないのに」
「さすが、今の今で戻ってこないだろ。
……で?結局、どう応えてくれんの?」
「何が」
「この写真消す代わりに、付き合ってくれるのかなーって」
携帯を持ち上げ、ちらちらと見せつけるその写真。
写真の向こう側には、この前拓に殴られたであろう場所に、傷を作っている健太がいる。