歪んだ愛しさ故に
 
「残念だな」
「……」


玲子さんがいなくなった途端、嫌な微笑みであたしを見てくる健太。

あたしもすぐに無表情へと変わる。


「べつに。
 ただ飲むだけでしょ」


今日の飲み屋は、一応は個室だけど、通路との区切りはない。
だからこんな場所で、健太が何かしかけてくるとも思えない。


「ってか、玲子に何も言ってなかったんだ?
 呼び出されたのは、それが理由かと思った」

「……言えるわけないでしょ。
 あんな信じ切ってる玲子さんを目の前に」

「だと思った。
 これ。バッチリ写ってるもんな?」

「…っ」


わざとらしく、自分の携帯を開いて、あのキス写真を見せてくる。


一瞬だけ動揺してしまったけど、すぐに平常心を取り戻して健太を睨んだ。


「いいの?いつ玲子さんが戻ってくるかもわからないのに」

「さすが、今の今で戻ってこないだろ。
 ……で?結局、どう応えてくれんの?」

「何が」

「この写真消す代わりに、付き合ってくれるのかなーって」


携帯を持ち上げ、ちらちらと見せつけるその写真。

写真の向こう側には、この前拓に殴られたであろう場所に、傷を作っている健太がいる。
 
< 233 / 287 >

この作品をシェア

pagetop