歪んだ愛しさ故に
 






「………いない…」


真っ直ぐ向かった、拓のマンション。

押したインターフォンには、誰も出る気配はなかった。


まだ会社にいるのだろうか。
とりあえず携帯を取り出して、通話ボタンを押した。


《………はい》


意外にも、その電話にすぐに応答した拓。

ちょっと予想外だったので、つい声が上ずってしまった。


「もし、もし……」
《琴音?どうした?》


受話器から聞こえる、拓の声。


なぜか、優しく聞こえるその声に、胸が勝手にときめいた。


今すぐ伝えたい。
だけど電話なんかじゃ嫌。




「…………会いたい、です……」




この気持ちだけは、会って直接伝えたいから……。
 
< 247 / 287 >

この作品をシェア

pagetop