歪んだ愛しさ故に
あたしの言葉に、拓は何も答えなかった。
それが肯定していることなんだと、すぐに分かる。
《ごめん。なんか電波悪いから。
後でかけ直す》
「あ……」
それだけ言って切られてしまった電話。
ツーツーという、虚しい電子音だけが聞こえてくる。
今、拓は葵さんのもとへ行っている。
拓が人生で唯一、心から好きになった人……。
今でも後悔でいっぱいの愛しい人……。
その人に会いにいったということは……。
(震える手で何かをするのって、本当にすごく怖いこと。
だけどその分、自分が強くなれるから……。)
悪あがきだって思われてもいい。
迷惑だって思われてもいい。
彼女のところになんか行かないで。
「すみません。
汐留駅までお願いします」
携帯を握り締め、タクシーへと乗り込んだ。