歪んだ愛しさ故に
 
「………すまなかったっ」



唯一聞こえた、拓の謝罪の声。

精一杯の謝罪の気持ちを込めた声。


あんなに苦しくて、一生懸命の声は、初めて聞いた。


葵さんの表情は無のままで
だけど小さく口を開くのが分かった。


聞こえてこない言葉。
顔をあげる拓。


そして……


「……」


綺麗な微笑。



二人は、拓の前から姿を消した。




拓は一人、その場に残されて
時が止まったかのようにその場から動かないでいる。


自然と歩き出す自分の足。


一人立ち尽くす彼のもとへ駆け寄り……




「拓……」




小さく見えるその背中に向かって、彼の名前を呼んだ。
 

< 253 / 287 >

この作品をシェア

pagetop