歪んだ愛しさ故に
 
「琴音のことは、後悔したくなかったから……。
 絶対に手離したくなかったから……。

 だけどなかなか素直になれなかったのは、やっぱり自分の過去があったから。

 ちゃんと葵に謝ってこないと、俺なんかが普通の恋愛なんかしちゃダメだって思った」



あたしの知らない、拓と葵さんの過去……。

きっとそれは、誰にも言えない深い傷を負うもので……
二人の中で消化されたのなら、あたしが聞く必要のないもの。



「だからちゃんと謝ってきた。

 もう俺を引き留めるものは何もないから……。


 ……琴音」



真っ直ぐと向き直って、
柄にもない真剣なまなざしをあたしに向ける。


その顔は、ほんの少し照れているようで、頬が赤いのは寒さのせいだけじゃない。




「お前が俺を好きになるまで、今度はとことん攻めるから。

 まわりくどいことなんかしない。
 ストレートに好きって言葉も伝える。

 だからそこを、覚悟しとけよ」




最後はニヤリと微笑んで、いつもの拓の顔になった。
 
< 259 / 287 >

この作品をシェア

pagetop