歪んだ愛しさ故に
 
「じゃ、お先ー」と何も分かっていない二人は会議室から出て行ってしまって、自然と二人きりになってしまう密室。

とりあえずここは、取り乱したら負けだ。

そう思い、いたって冷静に上沢さんを立ったまま見下ろした。


「なんですか?」
「ふっ……内心ドキドキ?」
「な……」


面白そうにニヤつく上沢さんに、カッと頭に血が上った。

この人は、人をからかって楽しんでる。


「あいにく。
 あなたに振り回されるほど、バカじゃないんで」

「うん、知ってる。
 だからいいんじゃん」


にこっと微笑んで、パッと見はどうみたって優しい先輩。

だけどこの人ほど、腹黒い人はこの世界にいないだろう。


これ以上ここにいると、完全に上沢さんのペースに巻き込まれそうな気がして、掴まれていた腕を振り払った。


「用がないんだったらこれで失礼します。
 まだ仕事が残ってるんで」


デスクの上にあったノートパソコンを手に持って、会議室の出口へと向かった。


駆けださないのは、取り乱しそうな自分を見せないため。

いたって冷静に、ゆっくりと歩いたのがいけなかった。



「な……」

「せっかく二人きりになったんだから、そんなすぐ逃がすかよ」



引こうと思ったドアが、上沢さんの手によって押さえつけられてしまった。
 
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