歪んだ愛しさ故に
 
「返して」
「嫌だって言ったら?」
「大声をあげます」
「でも人が駆けてきて、追いつめられるのはきっと豊田さんのほうだよね」
「……」


それは一理あった。

上沢さんは、会社では信頼おける人で……。
もしあたしが、この場で本当に上沢さんに襲われたとしても、誰かに言ったところできっと誰も信用してくれない。

むしろ、
「アンタみたいな地味女、上沢さんが相手にするわけない」
なんて言われるのがツキだろう。


「返してほしかったら、キスして」
「なんでっ……」
「もしくは、俺と付き合うか」
「……」


こんな一方的な押し付け、卑怯でしかない。


あたしに逃げるという選択肢なんかなくて
今言われたどちらかのことを聞かないと、この会議室から出ることすら出来ない。



こんな男と付き合うなんて絶対に嫌。

それなら……




「……っ卑怯者…」

「なんとでも」




心の底から憎いという目で睨みあげて
上沢さんの襟元のシャツを掴んだ。
 
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