歪んだ愛しさ故に
 
寒すぎ……。


3月の夜、とてもじゃないけどコートとマフラーなしでは外に出られない。

冷たい夜風が頬を撫で、思わずぶるっと震えた。


ざっとタクシーが来ないか道路を見てみたけど、タクシーどころか車どおりも少なくて、仕方なく駅まで出ることにした。
駅のロータリーに行けば、タクシーの1台くらい捕まるだろう。


足早で向かって、何人か並んでいるタクシー乗り場の列に自分も並んだ。

そっか。
金曜だから、飲み会とかで盛り上がりすぎて、終電逃す人多いんだ……。

すでに顔を赤くしながら前を並ぶサラリーマンを見て、そう思った。


寒い…。
早く来てくれ……。


寒すぎて携帯をいじるのも嫌で、ポケットに手を突っ込みながらひたすら耐えた。

だけどそのとき……




「こ……豊田さん?」




あたしの名を呼ぶ声。

顔を上げると、上沢さんが立っていた。
 
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