リップフレーバー
「来てたんだ、ごめんね。編集会議が長引いた」

私は雑誌社で編集の仕事をしている。

入社以来20代の女性雑誌の編集に携わっていたが、10年目の今年、4月の異動で女子小中学生向け雑誌の編集へまわされた。

副編集長と言う微妙な肩書きと共に。

要は編集長と部下達とのパイプ役で、中間管理職のサラリーマンそのものだ。

故に疲労度も高い。


「俺も今日帰って来たんだ」

「今回の撮影は、グァムだっけ?ハワイだっけ?3泊4日だったよね」

「……5泊7日のマウイ島」

少し拗ねた顔をして私の腕を引き寄せた。

「俺の予定とか興味無い?」

「興味無いことも無い」

嘘。

今週は忙しすぎて、日にちの感覚が無いだけ。

「相変わらずツレナイこと言う口だね」

私の首筋に軽くチュッと音を立て口付けると、急に陽希の動きが止まった。

陽希が犬のごとく、クンクンしはじめたのだ。

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