リップフレーバー
不思議な顔をしながら私の顔に鼻先を寄せて来るので、くすぐったくって堪らない。

「な、何?何してるの?」

「今日はいつもと違う匂いがしてる。あ、ここだ」

陽希は謎が解けたといった顔をして、ふわっと微笑む。


……癒されるのよね、このワンコみたいな顔に。

なんて、私が呑気に構えているうちにワンコは次の行動に移った。

今日フルーツみたいな匂いがする、と言いながら下唇をぱっくり食べ始めたのだ。

「美味しいかも」

陽希はクスクス笑いながら、上唇までペロッと舐める。

私はソファに押し倒され、焦る。

「ちょ、ちょっと」

「頂きます、させてよ」

妖しく微笑むその顔が美しいって、絶対自覚してるよね。

その姿を生業にしてるんだから。

「ハル、私はご飯を頂きますしたい。昼から何も食べてないんだよ~」

私は、陽希の良心(?)に訴えかける。

すると陽希は小さな溜息を吐きながら、ようやく私を解放した。
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop