だから私は雨の日が好き。【花の章】
「・・・好きよ」
触れた頬の温度に、心の底から心配になった。
だって、森川君の頬がこんなに冷たくなることなんてなかったから。
目を見つめたまま頬に触れて森川君に告げる。
森川君の目の奥は揺れていた。
さっきまでの色の無い目ではなく。
半年前に私を抱きながら泣いた時に見せた、痛々しさを孕んでいた。
「そんな顔を、しないで」
「・・・どんな顔だって言うんです」
「今にも泣きだしそうだわ」
「別に。俺が泣いたってあんたには関係ないじゃないか」
「そんなことないっ!!」
口から出た自分の言葉に驚いて、私は森川君の頬から手を放してしまった。
驚いて口元を押さえている私に目線を合わせる森川君。
大きな体を曲げて、私を見つめている男の子。
その目は、真っ黒で優しい。
さっきまでの何も映さない色でも、痛々しさの滲むものでもなかった。
私に一切触れない彼から目を離すことが出来なくて。
自分の心臓が強く脈打っているのを実感していた。
――――何で、あんなに必死な声が出たの?――――
自分の意志に反して荒げた声。
森川君の意識を私に向けるほどの声を、私は発した。
考えた訳ではない。
勝手に飛び出して、そのことで私を非道く動揺させたのだ。
森川君が私に触れる。
手のひらは、いつも通り体温が高いままだった。
頬を撫で頭の裏に手を滑らせ。
身体を折り曲げた状態のままで、私に深くキスをした。