だから私は雨の日が好き。【花の章】





「・・・好きよ」




触れた頬の温度に、心の底から心配になった。

だって、森川君の頬がこんなに冷たくなることなんてなかったから。


目を見つめたまま頬に触れて森川君に告げる。

森川君の目の奥は揺れていた。

さっきまでの色の無い目ではなく。

半年前に私を抱きながら泣いた時に見せた、痛々しさを孕んでいた。




「そんな顔を、しないで」


「・・・どんな顔だって言うんです」


「今にも泣きだしそうだわ」


「別に。俺が泣いたってあんたには関係ないじゃないか」


「そんなことないっ!!」




口から出た自分の言葉に驚いて、私は森川君の頬から手を放してしまった。

驚いて口元を押さえている私に目線を合わせる森川君。

大きな体を曲げて、私を見つめている男の子。



その目は、真っ黒で優しい。

さっきまでの何も映さない色でも、痛々しさの滲むものでもなかった。


私に一切触れない彼から目を離すことが出来なくて。

自分の心臓が強く脈打っているのを実感していた。




――――何で、あんなに必死な声が出たの?――――




自分の意志に反して荒げた声。

森川君の意識を私に向けるほどの声を、私は発した。



考えた訳ではない。

勝手に飛び出して、そのことで私を非道く動揺させたのだ。




森川君が私に触れる。

手のひらは、いつも通り体温が高いままだった。

頬を撫で頭の裏に手を滑らせ。

身体を折り曲げた状態のままで、私に深くキスをした。




< 103 / 295 >

この作品をシェア

pagetop