だから私は雨の日が好き。【花の章】
「――――んぅっ!まって――――」
「待たない」
頭の裏に回った手とは逆の手が、私の身体を持ち上げる。
軽々と抱え上げられた私は森川君を見下ろしていた。
お姫様抱っこのようにムードなんて欠片もなくて。
脇腹辺りを片手でひょいと持ち上げ、もう片方の手と一緒に私を抱き締めていた。
キスから解放された私は困惑した表情をしていて。
それが彼の真っ黒な目に映し出されている。
見下ろすことなんて初めてで、どんな顔をしてこの人を見つめればいいのか分からなかった。
「ちょっと、貴方。さっきまでの顔はどうしたのよ?」
「どんな顔です?」
「泣きそうな、情けない顔よ」
「それはあんたのおかげで無くなったんですよ」
「はぁ?だって、あの顔は。山本さんを想い出した時の顔でしょう?なんで私が関係あるのよ」
「・・・はぁ?もう、いい。黙って」
「――――っっ!!」
結局、さっきよりも深く唇を奪われて。
息をするのもままならないので、森川君の首に回して腕に力を込めた。
そのまま彼が目を開く気配がしたけれど、私は開いてやるもんかと躍起になっていた。
唇が離れてそっと目を開けると、すぐ傍にはベッドがあった。
彼はその真横で立ち止まる。
逃げることなど出来ない私は、なされるがままベッドに降ろされた。