だから私は雨の日が好き。【花の章】





「ちょ、ちょっと待って!」


「何?」




不満そうに私の上に跨る男を見つめる。

さっきまで可愛い男の子だったのに、突然ただの『男』になる。

それは『私を抱く』という意思表示であることを知っていた。




「貴方、明日早いんでしょ?」


「五時に現場の何が早いの?」


「十分早いわよ!だって、もう二時――――」

「あんたを抱いて、風呂に入る時間はあるよ」




それから先は、もう彼のペースだ。

私に有無を言わせない優しい唇。

頭や頬を優しく撫でる体温の高い手のひら。

覆いかぶさる重みも、バスローブを脱いだ大きな身体も。

私を黙らせるには十分過ぎるのだ。




初めて森川君に抱かれた時。

彼は信じられないくらい荒っぽかった。

まるで悔しさを吐き出すような抱き方は、私の荒んだ心と同じで受け止めてあげたいと想った。



その後。

彼は一度も私をそんな風には抱かなかった。

大切に大切に触れる彼の手は、自分が『特別だ』と言われているようで居心地が悪く。

何度も、優しくしないで、と懇願したものだ。



それを言う度、彼は優しくなった。

それは、自分の心を埋めるために彼を巻き込んだ自分の贖罪だと想って、甘んじて受け止めていた。




でも、今日の彼はいつも以上に甘い。

何度も私を見つめ、何度も私を甘やかす。

泣いてしまう私の瞳をそのままにせず、絶対に自分の方を向かせる。



人生の中で、こんなに大切にされたことがあっただろうか。

触れるところから広がる切なさが、優しさに変わっていく気がして。

私はたまらず彼にキスをした。




『亜季』と。

二人で昇り詰めた瞬間に、森川君が小さな声で私の名前を呼んだ気がした。




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