だから私は雨の日が好き。【花の章】
目を覚ますと身体が重く、気怠さが残っていた。
最近は目を覚ますと隣に彼がいるのが当たり前だったので、冷たいベッドは久しぶりだった。
足を延ばしてベッドのひんやりとした場所を探り当てる。
その冷たさが、少しずつ私の目を覚ましてくれていた。
森川君は、私が寝るまでずっと抱き締めてくれていた。
もう目を開けることすらままならないほど疲弊していた私を、大切そうに抱えてくれて。
時折、嘘みたいな優しい声で『もう寝なよ』と言って笑った。
そんな聞いたことのない声を出されると顔を見てみたくなり、その顔へと目線を向けた。
目が合った森川君は、今までで一番穏やかな顔をしていた。
今まで私に対してそんな顔をする男はいなかった。
いや、私がそんな顔をさせなかったのだろう。
そんな穏やかな表情をされたら、嫌悪感しか湧かないことが分かっていたから。
優しくしてもらうことを必要としていなかった。
都合のいいことが『イイ男』の条件だったのだ。
もし彼らが『その場限り以上』を求めて来るような男だったならば。
私は彼らと関係を持ったりしなかっただろう。
そう考えた時、ふと森川君が浮かんだ。
『その場限り以上』を求めてこないという点では、彼も同じであるはずだ。
苦しくてどうしようもない。
そんなお互いの気持ちを、ぶつけ合えればそれでよかった。
一度きりで構わない。
むしろ社内なんて面倒なことはしたくない、と。
そう想っていたのに。
それなのに、どうして。
私は、彼以外の人に会おうと想う事すらないのだろう。