だから私は雨の日が好き。【花の章】
「だから気にしないで飲めよ」
「わかりました。ありがとうございます」
嬉しそうに笑う櫻井さんを見て、一緒に飲めることの方が重要だったんだと気付いた。
前ほど一緒に飲む機会がなかったことを思うと、この時間のために時間を空けてくれたのだと分かったからだ。
二人とも程よく酒が回り大分気分が良くなってきた。
たばこに火をつけながら、櫻井さんが俺の方を向く。
仕事の時の目線とは違う。
『雄』としての強さを持った目線。
思わず身構える俺を見て、楽しそうに笑っていた。
「ははっ、なんて顔してるんだよ。何も取って喰ったりしないって」
「はぁ」
身構えた俺を見て白い息を吐き出しながらそう言った。
明るい光の中にいるのに、どこか暗闇に立たされているような感覚が襲ってきた。
「お前、案外顔に出るよな。感情とか」
「そうですか?この案件を任せてもらった時『お前は反応が薄いな』って言ったじゃないですか」
「あぁ、言った。反応が『薄い』って言ったんだ。『ない』と言った訳じゃない」
確かに、と納得してしまう。
そんなの屁理屈だと思うのだが、そんな反論をしようとさえ思わなかった。
何を言われても納得をしてしまう自分がいる。
『敵う訳がない』というオーラを持っている人。
それを『羨ましい』と思うことはあっても、『妬ましい』と思うことは一度もなかった。
ただ一つのことを除いては。