だから私は雨の日が好き。【花の章】





「すみません、亜季さん」


「いいのよ。大事にならなくて、本当に良かったわ」




千景のトラブルは第一部長のダブルブッキングだった。

こちらで把握していたスケジュールを無視して部長が予定を入れてしまったことにより、今日お会いするはずだった先方の副社長が来社してしまったのだ。

部長は当初の予定通りのアポ先。

自分のスケジュール管理が出来ないから秘書が付いているのに、何の意味もない行動をされてしまった。

いつもは仕事が出来る方なだけに、こういうミスがたまに傷なのだ。


幸い、アポ先は会社からほど近く。

部長も急いで戻って来てくれたので、その間を社長にお願いして雑談に付き合ってもらったのだ。


経営手腕は素晴らしいものなのに現場が大好きな社長は、二つ返事で副社長の相手をしてくれた。

そのお礼として、本日のアポは調整して早上がりが出来るほどのスケジュールを組んで差し上げたのだ。




「でも、アポ先に連絡が取れて助かったわ」


「はい。なんでも年末のカウントダウンでお世話になっている会社だそうで、企画営業部ヅテで連絡取ってもらいました」


「あら、そうだったの。私、副社長のお相手してたから知らなかったわ」


「あっ!・・・そうですよね、余計なこと言いましたかね・・・」


「なんで?企画営業部のツテは大切だわ。うちの大口クライアントのほとんどを把握してるもの」




本当のことを言っただけなのに、千景は驚いたように私を見つめていた。

何でそんなに驚いているのかと不思議に思い、首を傾げて千景に苦笑いを返した。




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