だから私は雨の日が好き。【花の章】
「私、そんなに変なこと言ったかしら?」
「いえ・・・。でも、亜季さんが何の感情もなく企画営業部のことを口にしたので・・・」
「え?するわよ、仕事だもの」
自分のデスクに腰掛けると、デスクの横に千景が立つ。
周りのメンバーから『お疲れ様です』と声がかかるので、一人一人に挨拶をかけた。
目の前の書類の束を分厚いファイルにまとめ、全役員のスケジューラーを確認しながら答える。
今日のようなことがいつもある訳ではないけれど。
一応、全員に再確認をしてもらおうと考えていた。
「・・・前は、言葉にしなかったですよね、営業部の名前」
「え?」
「少し前の亜季さんなら、もっと動揺してたと想います。なんだか、スッキリしたお顔立ちになりましたね」
千景は心底嬉しそうに笑った。
何も言ってこないけれど、部署のメンバー全員が嬉しそうに笑う気配を感じた。
気恥ずかしさと申し訳なさが混ざる。
後輩たちにこんなに心配をかけて、以前の私はどれだけプライベートを仕事に持ち込んでいたのだろう、と。
反省をするばかりだった。
「私、そんなに仕事に影響させてたかしら?その・・・プライベートを」
「いえ、逆です。何も影響はありませんでした」
「え・・・じゃあ、どうしてそんなに心配をかけてたのかしら?」
「いつもと変わらないことが、一番難しいことを私達は知っていますから。同じ一人の女として」