だから私は雨の日が好き。【花の章】
何も言えずにいると、手を引かれるように秘書室から連れ出されてしまった。
『では、お借りしていきます』と楽しそうな声に聞こえたのは、気のせいだろうか。
私は借り物競争の品物じゃないんですけどね。
連れて来られたのは、資料室。
ここには今まで手掛けた営業部の資料が所狭しと並べられている。
暗くて狭い。
どこか物悲しい部屋。
大きな彼が此処に立つと、狭そうだな、と感じる。
けれど、居心地がよいだろうな、とも思う。
狭い空間というのは『自分だけの場所』のようで安心するだろうから。
入口に入ると手を離され、やっと冷静になれた。
それなのに。
冷静さなんてぶち壊すように、彼は私に覆いかぶさってきた。
大きな彼から逃げるのは困難で。
身体を縮めるように屈み、私の首の後ろに手を回してきた。
何をされるのか予想が付いて逃げようとするが、そんな私を制する方法を彼は良く知っていた。
有無を言わさず重なった唇に、呼吸を遮るほど深いキス。
私の頭を逃がすまいと片手で支えながら。
もう片方の手で資料室の鍵を閉める音を聞いた。
「――――――っっ!!まッ――――――」
抵抗すればするほど深くなる彼のキス。
まるで今から抱かれるのではと錯覚するほど、身体が熱い。
息が出来なくて抵抗したいのに。
意志に反して、私の腕は彼の首に回され、彼は私を強く強く抱き締めた。