だから私は雨の日が好き。【花の章】
「ほらな」
「え?」
「そうやってまた少し表情が変わる。『確かに』って顔してるぞ」
「そうですか?」
「あぁ。時雨が言ってたぞ。『森川は良く見ると、すごく分かりやすい』って」
「・・・そう、ですか」
時雨は、簡単に俺のことを見抜く。
それを嬉しいと思う反面、怖いとも思う。
本当の奥底まで見抜かれてしまった時。
俺は時雨にどんなことを伝えればいいのだろう、と想って。
「・・・そろそろ行くか」
「あ、はい」
俺が何を考えているのか知っているかのように、静かに言葉を発してくれた。
この人は人のことをよく見ている。
人を見抜く才能というのは、生まれ持ったものなんだろうか。
もし身に付けてきたものだとしたら。
この人は一体、どれだけの人に逢い、どれだけ神経を研ぎ澄ましてきたのだろうか。
人の感情に気付けるということは凄いことだと思う。
人の感情に敏感な人は、それだけ変化に敏感だということだ。
それは『変わることに慣れている』か『変わることを恐れている』ということだと思った。
「大丈夫か?行くぞ」
「これくらい平気ですよ」
「どうだかなぁ。ま、そんなに弱くはないしな」
「そうですよ。それなりです、それなり」
そんなことを言いながら、タクシーを掴まえる。
打ち合わせがほとんどない状態で、どうして櫻井さんの家に泊まるのかは疑問だが。
長い夜になることは間違いないと思った。