だから私は雨の日が好き。【花の章】





唇を離されたのは、完全に抵抗力を奪われた後で。

ゆっくり離れながら目を開けた彼を、ただ見つめていた。

瞳の中に焦りと不安が浮かんでいて。

揺れる黒目に確信をした。




――――あぁ、また山本さんと何かあったのね――――




私を離す気がないという腕が切ない。

聞こえてくる彼の鼓動を、しっかり受け止めることが出来ない。

その分、自分の鼓動が良く聞こえていた。




いつもより、少しだけ早い自分の鼓動。

抵抗することを忘れたように、力の入らない身体。

熱い体温を心地よいと感じ。

頭を抱えるような熱い手に『離さないで』とまで想った。




―――――バシィッッ!!!――――――




それでも。

ここに少しでも会社の気配がすれば、仕事の顔に戻れるのが私。

ほんの少しでも自分の立場を思い出すことが出来れば。


どんなに大切な人であっても、冷たく接することが出来るから。




「ふざけるのも、いい加減にして」




声が震えるのは悲しいからじゃない。

悔しいからでも、怒っているからでもない。

持て余す自分の感情を制御出来ない印なのだ。


頬をさすりながら森川君が私を見つめる。

感情を持て余している私を見て、彼は笑った。

諦めたようにも見えるその笑いに。

私は何も言えず、ただ睨みつけていた。





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